【失敗談】 弾性衝突と運動量保存則の実験

静止した質点に、同じ質量の質点を速度で弾性衝突させる。衝突した質点は静止し、止まっていた質点はで飛び出す。これは、最も単純な運動量保存の例として多くの教科書に掲載されている。しかし、黒板で計算しただけでは、非物理系の学生が実感を持てるかどうか不安になった。そこで、ビー玉とプラスチック・レールを授業中に回覧させて、学生自ら確認実験をさせた。

ところが、実験してみると速度で衝突したビー玉は、減速したものの静止はしなかった。「これは弾性係数が1でないため」、とその場をしのぎ先に進んだ。しかし、後でとんでもない誤りであることに気がついた。学生から指摘される前に気がついたのは、幸いであった。

原因は、お察しの通り「回転自由度」にある。球の回転エネルギーの大きさは、重心の並進運動の運動エネルギーの約4割もある。しかも、この比率は球の半径によらない。「球が小さくなれば、質点に近づくだろう」というのは私のとんでもない錯覚であった。

速度で衝突したビー玉は、重心の並進運動の運動量だけを静止した玉に渡す。しかし、残りの回転エネルギーを依然持ったままであるため、減速するものの静止はしない。ならば、回転を止めれば良い。そこで、ビー玉を「オハジキ」に交換して学生に再度実験させた。速度で滑って衝突したオハジキは見事に静止し、止まっていたオハジキは速度で飛び出した。どうやら、ガラスの弾性係数は1に近いらしい。

言い訳であるが、私がビー玉を転がしたのは、レールとの摩擦を避けるためだった。つまり、理想的な衝突を見せようとして、逆にやっかいな回転効果を取り込んでしまった。心配した摩擦であるが、オハジキはレールの上をよく滑り、気にならないレベルであった。中途半端な配慮が「裏目」に出た例である。

冷や汗をかいたものの、これで一件落着である。この実験では、確実に直線的に衝突させるため、レールを用意する点に工夫がある。プラスチック・レールとオハジキは教養教育院の物理学実験準備室に用意してあるので、御利用いただきたい。(三浦)

最終更新日時: 2014年 05月 12日(Monday) 06:10