落下事故、エア・バッグと火星着陸

停止と激突は「程度の問題」だと強調して教えたい。速度と加速度の違いを理解するには、身近な例である。先日、マンション8階から地面に20m転落した幼児にかかる衝撃力を教えてくれ、とテレビ局から質問され困った。停止は加速度運動だから、停止距離が必要だ。いくらに設定したら現実的か。また、人体の構造も必要になる。

少しの条件変更で衝撃力(減速のための力)が激変する。計算すると、運よく助かるケースがあることが分かる。条件ごとに値を伝えたのだが、テレビ局はオーバーな数値が好きらしく、最悪の数値を「見出し」につけて報道されてしまった。

最悪とは?停止距離を10cmと設定してみた。背中からコンクリートに当たると、その程度かな、と思ったが自信がない。衝撃力は3トンを越える。手をつくだけでも何倍も衝撃は小さくなる。柔道の受け身の原理である。地面の土が少しへこむだけでも、効果は大きい。実際に、生垣や芝生に落ちて助かった例もある。

さて、その子だが、自転車置き場の屋根に落ちて軽傷だった。片持ち構造の屋根は大きくたわんで、停止距離を長くしてくれたのである。よかった。

最近の自動車に装備されているエア・バッグも停止距離をかせぐ原理は同じであるが、なんとNASA-JPLは火星探査機の着陸に使った。経費節減のためだそうだが、驚きである。6輪の探査車の着陸のときで、15m以上もはずんだそうだ。40Gまで耐える設計だが、じっさいには、2G程度ですんだそうだ。こういう発想は、なかなか浮かばない。(三浦)

最終更新日時: 2014年 05月 12日(Monday) 06:14