メトロノームによる同期現象
「同期現象(引き込み現象)」を、空き缶の上に載せたメトロノームを用いて再現する。
【キーワード】
同期*、引き込み*
【目的】
隣接する振り子時計、心臓の鼓動やカエルの合唱、ホタルの集団発光のように、周期的な運動をするものが複数集まったときに、外部の制御機構なしに全体が自発的にそろって振動する「同期現象(引き込み現象)」を観察する。
【用意するもの】
材料 | 個数 | 備考 |
メトロノーム |
2個以上 |
数が多いほうが引き込み現象の様子がはっきり見える。置き場所を考えると、小型の方が良い。 |
平らな板 |
1枚 |
ここでは、A4サイズのプラスチックのクリップボードを用いた。 |
円筒 |
2個 |
2つは同じものにすること。ここでは、缶コーヒーの空き缶を用いた。 |
【実験時間】
10分
【実験準備】
- 必ず、使用する講義室でリハーサルをしておく。
- 机が水平であることを確かめておく。机が水平でない場合、メトロノームを載せた板が円筒から転がり落ちてしまうことがある。
- メトロノームから出る音が大きいため、講義室が音を出して良い環境であることを事前に確認しておく。
- 全てのメトロノームの振動数を同じ値に設定しておく。理論的には多少ずれがあっても相互作用が強ければ同期は起きるはずだが、実験ではうまくいかないことがある。振動数は大きな値のほうが同期しやすい。
【実験手順】
- 机の上に2つの円筒を平行に置き、その上に板を載せる。
- 板の上にメトロノームを載せる。振れる向きは円筒の軸と直交する方向に合わせる。
- 全てのメトロノームを動かして、観察する。 はじめは、メトロノームの位相はまちまちであるが(図1-1)、やがて同期して振動する(図1-2)。
- メトロノームが十分に同期した後、どれかのメトロノームを手で止めたり、板を動かしたりするなどの摂動を加え、その後同期が回復するのを見てもいい。
図1-1.動かし始めたころのメトロノームの動き
図1-2.少し時間がたった後のメトロノームの動き
【教員による説明】
- 隣接する2つの振り子時計、心臓の鼓動、カエルの合唱、ホタルの集団発光などの例を挙げて、同期現象にはどのようなものがあるかを説明する。
- メトロノーム同士が、板を通じて互いにそろうように力を及ぼし合うことを説明する。以下、メトロノームの針の上側が右側へ振れることを「メトロノームが右へ振れる」と呼ぶことにする。
- まず、水平方向には外力が働いていないことに注意する。従って、系全体(メトロノーム+板)の水平方向の運動量は保存し、系全体の重心の位置は机に対して動かない。
- 次に、メトロノームの振れと重心について確認する。メトロノームを「本体」と「可動部分」に分けて考える。可動部分が静止しているとき、その重心は支点よりも下側にある。従って、メトロノームが右へ振れているとき、メトロノーム全体の重心は本体に対して左へ動いている。メトロノームと板は互いに滑らないので、メトロノームが右へ振れているとき、メトロノーム全体の重心は板に対して左へ動いていることになる。
- (ア)、(イ)より、あるメトロノームが右へ振れると、板はこのメトロノームから右向きの力を受ける。
- 一方、板が右向きの加速度をもって動くとき、板に固定された座標系では、左向きに慣性力がはたらく。これにより、メトロノームの重心は左向きの力を受ける。すなわち、メトロノームを右に振らせる力がはたらく。
- 以上をまとめると、あるメトロノームが右に振れるとき、それは他のメトロノームを右に振らせるように力を及ぼすことになる。左に振れる時も同様。
【注意点・備考】
振り子時計の発明者でもあるホイヘンスが、隣り合う振り子時計の同期を17世紀に発見したのが、同期現象の最初の発見であるとされている。
【動画】
【参考文献】
[1] J. Pantaleone, “Synchronization of metronomes,” American Journal of Physics, 2002, vol.70, 992.
同著者による解説が次のサイトにある: http://salt.uaa.alaska.edu/dept/metro.html
実験をする上での注意なども書かれているので、一読をお勧めする。
[2] 蔵本由紀、河村 洋史「同期現象の数理―位相記述によるアプローチ」培風館(2010)
【記事作成者】
小西 哲郎(名古屋大学理学研究科)
最終更新日時: 2014年 05月 7日(Wednesday) 20:31