ガウス加速器

ネオジム磁石球を使って、鉄球を加速して射出させる。

 

【キーワード】


ポテンシャル、運動量保存、剛体の運動(直線運動、回転運動)

 

【目的】


エネルギー保存則と運動量保存則が一見破れているように見える実験を考察することにより、エネルギーや運動量が保存するという意味と、磁気的なポテンシャルエネルギーの存在を理解させる。あわせて、剛体の運動についても理解させる。

 

【用意するもの】


材料 個数 備考
プラスチック・レール

1本

1m程度は必要。電気ケーブルの固定用レールで可。

ネオジム磁石球

1個以上

球の直径は 10 mmが適当。
鉄球 4個以上 球の直径は10mmが適当。
ビー玉 4個  
非対称な斜面を持つレール 1本  

 

【実験時間】


20分

 

【実験手順】


  1. レールの上に同質量の鉄球3つを接するように設置する。次に、右からもう一つの鉄球を目で追える程度の速度で入射する。(結果):一番左の鉄球は入射球より少し遅い速度で左へ射出される。残った3つの鉄球も少し左へ運動する。
  2. レールの上に同質量の鉄球2つを接するように設置する。さらに、その右側にネオジム磁石球を接するように置く。次に、鉄球を右方向から可能な限りゆっくり入射する。(結果):一番左の鉄球が非常に速い速度で左方向に射出される。その反動で、残った3つの球は、右方向へ運動する。
  3. 「どのように鉄球・磁石球の数や配置を変えれば、発射される鉄球の速度を上げることができるか」ということについて、学生に根拠を含めて考察させたり、さらにその考えを実際に試させたりする。(結果):磁石に対して鉄球が非対称に配置されたときにだけ、鉄球の射出が起こる。
  4. 非対称な斜面を持つレールの上に、同質量のビー玉3つを接するように設置する(図1)。次に、ビー玉を右方向から可能な限りゆっくり入射する。(結果):一番左のビー玉が非常に速い速度で左方向に射出される。


図1.非対称な斜面をもつレール上でのビー玉の配置

 

【教員による説明】


  1. 実験手順1.では、鉄球の直線運動のエネルギーと運動量は移行するが、回転運動のエネルギーは移行しない。そのため、真ん中に残された3つの球は少し動いてしまう。
  2. 実験手順1.では、エネルギー・運動量が保存されているように見えるが、実験手順2.では、それらが一見保存しないように見える。しかし当然ながら、ネオジム磁石によるポテンシャルエネルギーを含めればエネルギーは保存しており、残された3つの鉄球・ネオジム磁石球の反跳を考慮に入れれば、運動量も保存している。
  3. 実験手順4.の結果を踏まえて、磁気ポテンシャルと重力ポテンシャルが対応していることを述べる。重力ポテンシャルならば、3つのビー玉の左右の重力ポテンシャルの差が原因で、左方向にビー玉が射出されることが明確であるため、この現象の類推から、実験手順2, 3の結果を説明する。すなわち、磁石に対して鉄球が非対称に配置されたときにだけ鉄球の射出が起きるのは、「磁石の引力による左右のポテンシャルエネルギーの差」が、運動エネルギーに変換されるためであることを説明する(なお、これを確認するために、引力を実測した結果を【関連トピック】にまとめた)。

 

【注意点・備考】


  • 入射球と発射球の速度を測定する装置を設置すると、結果がより明確になる。
  • 実験手順の2.では、実験手順1.と比べて十分遅い速度で鉄球を入射した方が、印象が高まる。
  • オハジキのように摩擦が十分小さい鉄球や磁石球を使う、もしくはレール上にマイクロビーズを敷いて摩擦を減らせば、回転運動を考えずに済む可能性がある。
  • 安全性に特に問題はないが、鉄球の飛び出す方向に柔らかい布などをストッパーとして置くと、より安全である。
  • 高速度撮影によれば、磁石球の近傍では鉄球は回転せずに滑って衝突しているようにも観察された。
  • 運動の際に摩擦でエネルギーが一部損失するため、エネルギー保存則については定性的な議論に止める。

【参考文献】


[1] David Kagan, “Energy and Momentum in the Gauss Accelerator,” The PHYSICS TEACHER, January 2004, Volume 42, Issue 1, pp. 24-26.

[2] 物理チャレンジ2006実験問題2 http://www.phys-challenge.jp/img/pdf/jikken-q2006-2.pdf

 

【関連トピック】


「静止させた磁石球の間の引力の測定」

静止させた磁石球間の引力(青色)、および、間に鉄球を入れた場合の静止させた磁石球間の引力(赤色)を図2に示す。図より、鉄球を磁石の間に入れることで、磁石球間の引力が弱くなることが分かる。なお、レールの上を転がる磁石球間の引力の値は、静止させた磁石球間の引力の値とは異なると思われる。また、2mm以下に接近すると引力が急激に増大するので、測定は困難であった。


図2.磁石球間の引力(青色)、および、間に鉄球を入れた場合の磁石球間の引力(赤色)の実測値

【動画】


 

 

【記事作成者】


千代 勝実(名古屋大学理学研究科)

最終更新日時: 2014年 05月 9日(Friday) 08:07