渦電流ブレーキ
アルミL型アングルに沿わせると、磁石球はゆるやかに落下する。
【キーワード】
電磁誘導、渦電流*、ジュール発熱*
【目的】
コイルだけではなく、板やパイプでも、磁場が変動すれば電磁誘導によって電流が流れうることを定性的・定量的に理解させる。また、ジュール発熱により力学的エネルギーが損失することを理解させる。
【用意するもの】
材料 | 個数 | 備考 |
ネオジム磁石球 | 1個 | 直径10mm。 |
金属球 | 1個 | 直径10mm。 |
アルミL型アングル | 1本 | 3.0mm厚、一辺25mm、長さ30cm(図1)。 |
プラスチック定規 | 1本 | 2.9mm厚、長さ30cm。 |
アクリル・パイプ | 1本 | 1.0mm厚、外径20mm、長さ30cm。 |
薄肉ステンレス・パイプ | 1本 | 0.5mm厚、外径20mm、長さ30cm(図1)。 |
薄肉銅パイプ | 1本 | 0.5mm厚、外径22mm、長さ30cm(図2)。 |
厚肉銅パイプ | 1本 | 1.0mm厚、外径22mm、長さ30cm(図1)。 |
スリット入り銅パイプ | 1本 | 0.5mm厚、外径22mm、長さ30cm(図2)。ここでは自作。 |
柔らかい布 | 1枚 | 雑巾、ハンカチで可。衝撃を和らげるために使用する。 |
図1.左から薄肉ステンレス・パイプ、厚肉銅パイプ、アルミL型アングル。 |
図2.左は、スリット入り銅パイプ(細い銅板を互いに絶縁してパイプ状に並べた筒)。右は、薄肉銅パイプ(スリット入り銅パイプと同じ銅板を丸めたパイプ)。 |
【実験時間】
20分
【実験準備】
- アングルやパイプを購入し、適切な長さに切りそろえておく。
- スリット入り銅パイプを自作しておく。
【実験手順】
それぞれの実験をする前に、学生に実験結果を予想させる。
- アルミL型アングルに磁石球を近づけ、アルミが磁石につかないことを確認する。
- [磁石球と金属球の比較] ほぼ垂直に立てたアルミL型アングルの内側に沿わせて、磁石球、および金属球をそれぞれ落下させる。(結果):磁石球は金属球よりも、ゆるやかに落下する。(教員による説明):アルミは磁石につかないにもかかわらず、落下させる物体の磁力が、落下速度に影響することを述べる。
- [アルミL型アングルとプラスチック定規の比較] ほぼ垂直に立てたアルミL型アングル、およびプラスチック定規に沿わせて、磁石球を落下させる。(結果):プラスチック定規よりもアルミL型アングルに沿わせた方がゆるやかに落下する。(教員による説明):アングルが導体であることが、落下速度に影響することを述べる。
- [アルミL型アングルの内側と外側の比較] ほぼ垂直に立てたアングルの内側、および外側に沿わせて、磁石球を落下させる。(結果):外側よりも内側を沿わせた方が、ゆるやかに落下する。(教員による説明):磁石と接し、磁場変化を感じる金属板の面積が、落下速度に影響することを述べる。
- 銅パイプに磁石球を近づけ、銅が磁石につかないことを確認する。
- [磁石球と金属球の比較] 垂直に立てた薄肉銅パイプの中央部に、磁石球、および金属球をそれぞれ落下させる。(結果):磁石球は金属球よりも、ゆるやかに落下する。(教員による説明):銅は磁石につかないにもかかわらず、落下させる物体の磁力が、落下速度に影響することを述べる。
- [薄肉銅パイプと厚肉銅パイプの比較] 垂直に立てた薄肉銅パイプと厚肉銅パイプの中央部に、磁石球を落下させる。(結果):薄肉銅パイプよりも厚肉銅パイプの方がゆるやかに落下する。(教員による説明):薄肉銅パイプよりも厚肉銅パイプの方が、電気抵抗が小さいことを説明する。そして、パイプの電気抵抗、およびパイプを流れる電流が、物体の落下速度に影響することを説明する。
- [ステンレス・パイプと薄肉銅パイプの比較] 垂直に立てた薄肉ステンレス・パイプと薄肉銅パイプの中央部に、磁石球を落下させる。(結果):薄肉ステンレス・パイプよりも薄肉銅パイプの方がゆるやかに落下する。(教員による説明):銅よりもステンレスの方が、電気抵抗が大きいことを説明する。これより、パイプの材質による電気抵抗の差が、落下速度に影響することが分かる。
- 電磁誘導の法則によると、磁石球を落下させたときに、パイプの中をどちら向きに電流が流れるかを考えさせる。誘導電流の向きが磁石球に及ぼす力の向きが、運動を妨げる方向であることを確認させる。そして、実験7.,8.の結果から、電気抵抗の大きさとジュール発熱の大きさの関係について説明する。
- [銅パイプとスリット入り銅パイプの比較] 垂直に立てた銅パイプとスリット入り銅パイプの中央部に、磁石球を落下させる。(結果):同じ材質、同じ厚みにも関わらず、スリット入り銅パイプよりも銅パイプの方がゆるやかに落下する。(教員による説明):パイプの中を流れる電流の向きが確認されたことを述べる。
【注意点・備考】
- この実験は、電磁誘導についてすでに学んだ学生向けの実験である。
- 学生が机上で実験する場合は、磁石球や金属球の落下地点に柔らかい布などを敷くと、跳ねて転がらないので便利である。逆に、教員が教壇で演示する場合には、何も敷かずに球が着地するときに音を出した方が、講義室後方の学生でも落下速度の違いを理解しやすい。
- ネオジム磁石の磁力は強力であるため、磁気カードに近づけないように注意する。
- 実験教材を学生5人あたり一組程度用意して、グループで実験をさせてもよい。
- 純粋な銅と合金であるステンレスの電気抵抗の大きさを、平均自由行程の長さから比較して考察させてもよい。
【動画】
【関連トピック】
渦電流の効果は、非接触型のブレーキに使用できる。日本では、初期の新幹線「ゼロ系」のブレーキとして、車軸に取り付けた金属円板に磁場を加えた。ドイツの鉄道では、円板ではなくレールに磁場を加える方式で、渦電流でレールを発熱させた。更に、新幹線ではモーターで発電した電流を抵抗体に流し、ジュール発熱させた。これらの方法は、エネルギーを熱として捨ててしまう。そこで、現在は省エネのため、在来線、新幹線共に、モーターで発電した電流を架線に戻し回収している(回生ブレーキ)。
【記事作成者】
三浦 裕一(名古屋大学理学研究科)
Last modified: Friday, 9 May 2014, 9:44 AM