空手の物理−空手ボードテスター

空手ボードテスターを使い、空手板を割るのに必要な仕事量 $W=\int F \cdot ds$ を計算し、モーションセンサーを使い自分のハマーストライクパンチ(鉄槌打ち)の運動量エネルギーを測定した上で、その空手版が割れるかどうか予測をたてる。

 

【キーワード】


仕事、運動エネルギー、弾性・非弾性衝突、力積、運動量、運動量保存の法則

 

【目的】


仕事、運動エネルギー、そして運動量の概念を理解した上で、それら全ての概念を「空手板を割れるか」、「その時手はどれぐらい痛い?」という現実問題に応用する。

 

【用意するもの】


材料 個数 備考
空手ボードテスター 1台 Hans Pfister (Dickinson College)のデザイン1に基づき、信州大学工学部加工技術センターの原 宏と石田恭正が制作したものを使用。
空手板 グループに1-2枚、1人1枚 15cm×28cm× 2cmぐらいの松または杉の板(なるべく節目のないものがよい)。グループ探求に1枚必要だが、それぞれ探求後試し割をするために、1人1枚必要になる。
ブロックなどのおもり ブロックまたはおもりの総重量(よって総数)は空手板の厚さ(割れにくさ)による。我々はそれぞれのグループに40kg程度用意する(1つのおもりは0.5-1kg程度が望ましい)。
電子ばかり グループに1 おもりなどの重さを測る。
モーションセンサーおよびコンピューターデータシステム 1セット 我々はPasco社のXplorerGLX(センサー対応インターフェイス)とmotion sensor(超音波運動センサー)をコンピューターにつなげ、データを取得し、 Data Studio (データ分析用ソフトウェアー)を使い分析する。
軍手 1人に1組 試し割をする際に手の皮膚を守るため。

 

【実験時間】


90分

 

【実験手順】


空手板を割るのに必要な仕事量の計算

図1. 空手板(karate board)が設置された状態の空手ボードテスター。その板の重心にbreaking rod(割る棒)を置き、ダイアルゲージはbreaking rodに接し、load-bearing platform(おもりをのせるプラットフォーム)がつるされる。※This figure is provided by P. Laws

  1. 空手ボードテスターを組み立てる。
  2. テスターに空手板を設置した際、板が床に水平である事、breaking rodが板の重心にあること、ダイアルゲージが板に対して垂直である事を確認する。
  3. ダイアルゲージをゼロ化する。この時点が $F(s)=0$ at $\Delta s=0$である。
  4. Load-bearing platformをbreaking rodにつるす。このプラットフォームが床に対して水平であることを確認した上で、ゲージからを読み取り、$F(s)$を記録する(データ2)。
  5. プラットフォームの中心(breaking rodの真下)におもり(~1kg)を1つのせ、データを取る。次はそのおもりの左右におもりを1つずつ載せる。そしてさらにデータを取る。あとは同じく左右のバランスがとれるように均等におもりを載せていき、その度に測定する。プラット―フォームが振動しないように静かにおもりを載せること。また、新たに載せたおもりによって板がしなるには時間がかかるので、ゲージのはりが動かなくなるのを確認してからデータを取ること。測定は板が割れるまで続ける。
  6. 板を割るのに必要な仕事量$W=\int F\cdot ds$を計算する。

ハマーストライクパンチの運動量の計算

  1. 電子ばかりで自分の手の重さを測る。電子ばかりで手の重さだけを正確に測るためには、腕をリラックスすることが大切。目安として体重の0.614%(男)、0.56%(女)が手の重さである3
  2. コンピューターにPascoXplorerGLXとmotion sensorをつなげ、DataStudio を起動する。
  3. 長距離モード(wide ultrasound sending mode)にしたモーションセンサーを床に置き、ハマーストライクパンチの時間ごとの距離(速度)を測る。センサーから60cm程離れて立ち、ハマーストライクパンチの際、腕が水平になる時に手がちょうどセンサーの上に来るようにする。パンチの速度を測定する前に、ゆっくり腕を動かしてみて、センサーが天井ではなくあなたの手の動きを記録していることを確認する。位置と時間のグラフでスムーズな放物線ができれば成功(スパイクができたら、センサーが天井を測定したという証拠)。
  4. 5-6回測定し、ベストな測定値からパンチの速度を記録する。

【Workshop Physics Unit 10 Karate and Physics】

空手と物理の探求の際に使うワークシート2の4つのアクティビティを誘導する設問である。

10.10.1. アクティビティ:板を割るのに必要な仕事

a. 板に加わる力Fxと板の平衡状態からの変位xを測定する方法をグループで議論しなさい。下にその方法を説明し結果を書きなさい。測定をまとめたデータテーブルを作成し(単位を含む)、Fx vs. xのグラフを作成しなさい。データテーブルとグラフをそれぞれプリントし添付しなさい。x方向の力は一定ですか?

b. データに基づき、板を割るのに必要な仕事を計算する方法を話し合い、その方法を記述しなさい。そして実際に仕事を計算し、計算過程を下に記しなさい。

10.10.2. アクティビティ:あなたの手に板を割るのに必要な運動エネルギーがあるか?

a. 板を叩く直前のあなたの手の運動エネルギー量を測定する方法をグループで話し合い、測定に必要な道具・機器を設定しなさい。以下に方法を述べ、結果を記しなさい。

b. あなたの手と板の衝突には全く弾性がなく、板を支える空手ボードテスターにあなたのパンチの運動量は全く移らなかったと仮定した上で、運動量保存の法則を使い、板が割れた後共に運動するあなたの手と板の破片の速度を求めなさい。

c. 次にあなたが板を打った後に板が得る運動エネルギーを計算しなさい。これだけ の運動エネルギーがあれば板は割れるでしょうか?Note:この衝突が100%非弾性だとすると、力学的エネルギーは保存されません。

あなたは怪我をするか?

板を割るのに必要な仕事、そして、あなたの手が板を打つ直前の運動エネルギーの大きさがわかりました。次はあらゆる状況下での負傷の可能性を考えなければいけません。Note: 900Nの力が0.006秒はたらくと人間の頬骨は折れると言われます。

10.10.3. アクティビティ:怪我をする可能性

a. あなたが板を割る時、あなたの手と板は非弾性衝突し板が割れると仮定します。この時のあなたの手の運動量変化高はどれだけですか?計算しなさい。計算過程も示すこと。この計算において、あなたが仮定したことを説明しなさい。

b. 板を打つ途中で急に怖くなり、あなたのパンチのスピードが、板を割るのに必要な最低スピードを下回ってしまったと仮定します。この場合のあなたの手の運動量変化高を求めなさい。計算過程も示しなさい。この計算において、あなたが仮定したことを説明しなさい。

c. 衝突時の手と板の接触時間は、台車が衝突に要した時間と同じだと仮定します (アクティビティ8.7.1参照)。         a. と b.の結果を使い, あなたが板を割る時に受け る最大力はどれぐらいか、計算しなさい。また、板を割るのに失敗したときに受ける最大力も計算しなさい。

d. 手の負傷の度合いは、手に加わる最大力に比例するとします。さらに、あなたは理論的に板を叩き割ることができるのにもかかわらず、パンチの途中でビビッてスピードを緩めてしまうと仮定します。その結果はどうなるでしょうか?あなたが負傷する確率は大きくなるか、小さくなるか、どうでしょう?説明しなさい。

 

これで全ての情報が集まりました。素手で空手板を割ってみますか?

これまでの計算は板を空中で割るという仮定に基づいています。よってもちろん空中で板を割ることも可能ですが、板の両端を支えたほうが板は割りやすいという計算結果が出ています。支えることによって板を正確に打つことができ、それ故割れやすいということもあるので、支えを使いましょう。

10.10.4. アクティビティ:選択―板を割る

課題に関連するあらゆる物理量を考慮したうえで、私は板を割れると確信しました。ぜひ試し割をさせてください。

 

署名 ______________________________               日付 ____________

 

教員の署名  ________________________             日付 ____________

【参考文献】


[1]       H. Pfister, Karate Board Tester Instruction Manual and Experiment Guide for the Model SE-8948 (Pasco 1996) available to Pasco website

[2]       P. W. Laws, Workshop Physics Activity Guide Core Volume with Module 1 Mechanics II (John Wiley & Sons 2004). The activities for “Karate and Physics” in Unit 10 are available at  http://physics.dickinson.edu/~wp_web/wp_activities.html

[3]        P. DeLeva, Adjustments to Zatsiorsky-Seluyanov’s segment inertia parameters. Journal of Biomechanics, 1996 v.29 (9), pp.1223-1230

 

【記事作成者】


藤田 あき美(信州大学工学部)

最終更新日時: 2015年 02月 17日(Tuesday) 15:35