「落ちる変化球」と放物運動―変化球の誤解―
野球の「落ちる変化球」には各種あるが、1mも急激に落ちるフォーク・ボールが有名である。しかし、無回転であり積極的に「落ちる」要素がないのが不思議である。高速度カメラで軌道を調べた研究では、単なる放物線に近かった。なぜ、「魔球」という誤解が生じたのか、考えてみよう。
フォークは投げるのに苦労する。指でボールを挟んで投げてみると、スッポ抜ける。よって、大変な握力が必要であり、プロでも爪が割れたり、はさむ指の血行障害を起こして引退した投手もいた。単なる放物運動をさせるために、これほど苦労して投げるのでは割に合わない。第一、直球の軌道から急激に落ちるではないか。
しかし、計算すると急激に落ちて見えるのは錯覚であることが分かる。時速140kmのボールでも、捕手まで飛行すると重力で1mも落ちるのである。落下距離は時間の二乗である。しかも、打者に接近しながら落ちるので、打者からは落差が拡大されて見える。この二つの効果で「急激に落ちる」という錯覚が生じる。もっとも投手としては、錯覚だろうが何だろうが、打たれなければ良いのであるが。
そうすると、直球の軌道の方が「異常」ということになる。スナップで回転をかけ、約95cmも引き上げていることになる。よって、真空中では何を投げてもフォーク・ボールになってしまう。また、無重力の大気中では、直球は上に1m近く浮き上がり、逆にフォークは直進するため容易に打たれるだろう。ここでは完全に無回転のフォークを仮定したが、実際には投手は意識的に回転を残して変化させ、打者を惑わしているそうだ。(三浦)
最終更新日時: 2014年 05月 15日(Thursday) 02:37